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【オクシズ・コラム③】山里の祈り―ヤマメ祭り その1-
南アルプスの玄関口、大井川上流に位置する井川地区。
その中でも最上流部の田代集落に、
信州からの移住伝承を物語る「諏訪神社」が鎮座しています。
井川の殿様「海野家」のショイガミ(背負い神)であったといわれ、
江戸時代には、井川の"総氏神"として、広く信仰をあつめてきました。
この神社の大きなお祭りは、
毎年8月26日、27日に執り行われる例大祭です。
とくに26日の夜は、井川全域から多くの人々が集まり、
花火や踊りで賑やかに過ごすことから、「六夜(ろくや)さん」、
また、この祭りで神にささげる供物の特徴から、
「ヤマメ祭り」とも呼ばれています。
写真は、「ヤマメ祭り」の名のもとになったヤマメずしです。
普段は禁漁区とされている
神聖な谷「明神谷」で釣ってきたヤマメの腹に、
焼畑で栽培したサカアワ(粟)を詰めたもので、
かつての山の暮らしを象徴する特別な神饌です。
明神谷でヤマメを釣ってくるのは、8月20日。
その年の、当番組の人々が、前の日から明神谷の奥深くまで入り、
35匹以上のヤマメを釣りあげてきます。
そして、明神谷のカヤゴヤという場所で、20日の正午ころから
「魚(うお)釣り祭り」という、ヤマメの捕獲儀礼を執り行います。
カヤゴヤは、昔から、魚釣り祭りの祭場とされてきた場所です。
雑木を三本足に組んだカワクラに、釣ってきたヤマメを吊るし、
神事が始まります。
このお祭り、昔から男性のみで行うものとされてきましたので、
地元の女性も、祭りの場には入りません。
また、神事のさなか、釣竿をカワクラに立てかけておくと、
豊漁に恵まれるといいます。
神事を終えると直会です。
直会では、当番組ごとに思い思いの食事が、振舞われます。
この年は、釣ったばかりのヤマメを焼いて
ダシをとった味噌汁でした。
具材には、当番組の人々が持ち寄った
地元の旬な野菜が使われています。
また、魚釣り祭りの大切な神饌として
ヤマメのハラワタで作った塩辛も振舞われます。
こうして釣りあげてきた、ヤマメは、イタドリの葉に包み、
集落へと持ち帰ります。
イタドリの葉で包むのは、酸味があり、防腐剤として利用できるからです。
持ち帰ったヤマメは塩漬けにされ、
祭り前日まで、神官のお宅に保管されます。
(つづく)