オクシズ推シ!

オクシズ推シ!

記事一覧

過去の記事

オクシズ推シ! ニュース

【オクシズコラム⑯】民話の里をたずねて―伊勢ソーホーと"ひよんどり"―

大井川最上流部、

井川地区の名物といえば、井川メンパ。

IMG_2162.JPG

さまざまな大きさの井川メンパ。かつては丸いメンパだけでなく角メンパも作られていた。

       

曲げ物のお弁当箱です。

江戸時代の文献にも出てくるほど、

古くから井川の特産品として知られていたようですが、

この曲げ物にまつわる次のような物語が伝えられています。

    

  昔、井川の小河内集落に伊勢ソーホーという人物がやってきて、

  村に住み着き、曲げ物の杓(しゃく)を作っていた。

  村人たちは、

  なんとか杓を作る方法を教えてくれないだろうかと頼みこんだ。

  すると伊勢ソーホーは、

  村で"ひよんどり"という行事を行うことを条件に

  曲げ物の技術を村人たちに教えてくれた。

  これが今のメンパにつながる井川の曲げ物づくりのルーツである。

  今でも伊勢ソーホーのお墓が大切に祀られている。

    

小河内は、井川地区でも最奥部に位置する小さな集落で、

かつては金の採掘も盛んにおこなわれていました。

9 小河内集落で焼畑が復活.JPG

金の採掘には「ユリボン」をはじめとして

桶、柄杓など曲げ物の道具が必需品でしたので、

伊勢ソーホーの伝説は、

そうした背景があって生まれたものなのでしょう。

ごく近年まで柄杓をつくる技術が地元に伝わっていたようです。

IMGP0540.JPG

かつて小河内で作られていた柄杓

    

    

井川には、かつて

集落ごとに"法印(ほういん)さん"と呼ばれる

民間の宗教者(修験者)がいました。

20131221164217125_0001.jpg

"法印さん"は呪術的な方法で

病気を治したり、畑の虫よけをするなど、

村人の求めに応じて様々な祈祷を行っていました。

    

そもそも山伏などの修験系の宗教者は、

山里から山里へ転々としながら様々な祈祷をし、

さらには暮らしに必要な技術を

村人に伝授するということも行っていたようなので、

伊勢ソーホーも遊行の宗教者として

何処からかやってきて、

小河内に土着した人物だったのかもしれません。

   

  

さて、

伊勢ソーホーが曲げ物の技術とともに村人に伝えたとされる

"ひよんどり"の行事(動画有)は、

今でも毎年正月1日の早朝に小河内の人々によって執り行われています。

   

元旦の朝、午前6時ごろ。

各家の主人が公民館に集まり、ひよんどりの行事が始まります。

IMGP9950.JPG

まずはウタイゾメ。

音頭取りの歌に続いて、村人が"ひよんどり"の役歌を唱和していきます。

   

ヒヨンドリの役歌には9つあって、

火伏せの唄を中心に、村の安泰や家の安全を祈るものなど

内容もさまざま。

1.JPG

それぞれ歌う場所が決められていて、

独特の節回しで唱和していきます。

     

ウタイゾメを終えると、提灯片手に皆で村内の練り歩きに出発です。

4.JPG

参列者が思い思いの唄を歌ったり、

     

途中、ネリコミといって村の辻などで奇声をあげて

身体や提灯をぶつけ合ったりしながら、

5.JPG

    

最後は、「お井戸」で歌いおさめてこの行事を終えます。

IMGP1556.JPG

    

11.JPG

    

村で唯一の共同の水場である「お井戸」の水は、

一年中枯れることはなく、

かつては、毎日のように村の人々がやってきて、

生活に必要な水を汲んだり、洗濯をしたりする場所でした。

     

ひよんどり行事は、

そうした場所で村の安泰を願う唄を歌いおさめ、

一年をスタートさせるという

小河内の人々にとって、とても大切な行事だったのです。

     

ところで"ひよんどり"の語源は

「火踊り(ひおどり)」から来ていると考えられています。

    

かつては小河内のでも提灯ではなく、

松明をもって集落を練り歩いたと伝えられているように、

火をともなう行事でした。

    

同じ名称の行事は静岡県中西部に分布していますが、

伝えられている祭りの形は地域によって多様です。

男女一緒に輪になって、火を囲んで歌い踊ったり、

静岡県西部の山間地では、激しい所作を伴う民俗芸能として

全国的にも有名な"ひよんどり"行事が受け継がれています。

DSC01612.JPG

川名のヒヨンドリ(浜松市北区)

    

     

    

小河内の"ひよんどり"は、

それと比べてしまうと実に素朴な行事ですが、

その伝承の中に、地域が歩んできた道程を想起させる

大変興味深い行事であるといえるでしょう。

6.JPG