大川
藁科川の涼やかな流れと、緑ゆたかなお茶畑と歴史をたっぷり堪能。
藁科川最上流に位置しています。縁側でお茶を振舞うなどあたたかみ溢れた人情が、訪れる方々を癒してくれます。また、聖一国師の生家があり、静岡のお茶の歴史に触れることができます。
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湯ノ島―馬込を歩く
思い立って、昔よく人がかよっていたという山の道を歩いてみた。温泉のある 湯ノ島集落の、玄国堂の上の方から、開拓地の馬込へ抜ける山道だ。
今の70代半ばぐらいから上の世代は、想像もつかないほど体を使った仕事をしてきていると、話をお聞きするたびに思う。実によく歩いているので、山の地形や方向の感覚がとても優れている。それに対して、車で道路をたどっているだけの私は、土地の位置関係がまったくわからない。地図を見てあらためて、峠ひとつ向こうがこの集落だったのか!と気づかされることがある。
だから、たまには自分の体で確かめてもみたかったのだ。
湯ノ島から馬込へも、歩いて1時間もかからないと聞いていた。一番上の家で、茶畑を横切らせてもらえるようお願いすると、「さて、雑木になってホツ(峠)に上がるところが、初めてで分かるかどうか...」と首をかしげられた。そして、登っていく私をいつまでも見上げていてくださった。
暗い林が続くようならどうしようと思っていたが、杉ヒノキはよく手入れされていて歩きやすかった。途中で森林組合の人にも出会った。ケモノの気配はしたけれど、姿をみたのはカモシカ一頭だけだった。ややおどろおどろしい箇所もあったが、冬の雑木林は開けて、気持ちがいい。案外あっさりと、鉄塔の管理道まで上がることができた。
展望のきく場所まではと、歩き続けると、楢尾や崩野の集落が見渡せる尾根上に出た。ああこうつながっているんだなと、やっとわかった。そうしてたどりついた馬込は、いつもよりも静かなように感じた。
あとできいてみると、やはり昔の通い道と、現在の鉄塔の管理道(尾根道)とは違っていたようだ。昔はもっと「横ばらいに」(トラバース気味に)道がついていたらしい。そして、荷物なしで行き来するということはなく、いつも何かしらの荷を背負っていたという。「にんぼう」(T字型の杖。荷を背負ったまま、立って休むことができる)をついて。雨の日は肥料をかついで。そうやって通った道が、山間部のあちらこちらで、埋もれようとしているのだと思う。